復讐鬼は羽化する夢を見るか
※『マスカレード・ホテル』のネタバレを含むと思います。
※セリフ部分は曖昧です。フィーリングで感じて。
2連続で宝塚の話はバランス悪いなぁと思ってたんですけど、ちょっとこれは書きつけなきゃいけないなと思ったので今回も宝塚の話です。
今回は花組の『マスカレード・ホテル』について書こうと思います。
マスカレード・ホテルは「あの」マスカレード・ホテルです。東野圭吾の小説で、キムタクが映画やったアレ。
宝塚の面白いところはとりあえずなんでも舞台化するところで、私はそのチャレンジ精神が結構好きだったりする。
何事も保守的になり過ぎると縮小の未来しかないからね。伝統とコンテンツの核は必ずしもイコールではないし、時代とともに需要だって変わるし。もちろん、核の部分は変わらず大切にするべきだと思うけどね。
まぁこの呟きはこの話の核ではなくて。
本当に前置きが長いのが伝統化してきているな……。
今回もあきらさん(詳細は前話)の大ファンの友だちに誘ってもらい、いそいそと外苑前に足を踏み入れたわけです。いつもありがとうございます。
外苑前はすごく冷えた。
全然関係ないんだけど「外苑前は冷えた」って面白いな。
「外苑前は冷えていた」なら雪とか何かしらの原因によって[外苑前が]その状態になったことが明確だけど、「外苑前は冷えた」だと雪などの原因によって外苑前でない[意味上の主語が]冷えたことが分かる。
ここから、「外苑前は冷えた」の[外苑前]はinを表していて、主語は英語では無生物主語(気温)のitで表されると思うんだけど、日本語の意味上の主語は[私たちの身体が]になるのかなあ、などと。分からん。
ウナギ文みたいで面白いね。
冷 がゲシュタルト崩壊してきたので終わります。
まーた横道に逸れた。
なんだっけか。
そうそう、外苑前は寒かったって話。
日本青年館は外気とは正反対に暖かかった。
その日は、いやその日も、なのかな。あきらさんファンクラブの人がとても沢山いた。きっと何回も観てるんだろうなぁという雰囲気があった。それだけ面白いのかな、と感じた。
前情報として、音くり寿(おと くりす)ちゃん(花組娘役 私の御贔屓)の演技が""やばい""とは聞いていた。どうやばいのかは知らないが、とにかく""やばい""らしい。
また、原作履修はしてこなかった。宝塚は二次創作か??くらい舞台用に脚色することがあるので、あれはあれ・これはこれという楽しみ方をしようと思ったためである。
席で友だちに見どころは?と訊いたところ「全部です!!瞬きもしないで!」と言われた。
なるほど。それはすごい。
期待値をぐーんと上げ、ちょこんと座っているうちに幕が開いた。
オープニング。
いや歌うま!!!みんな歌うま!!
ダンスも去ることながら歌うま!!!!!
くり寿ちゃんが右手前で歌ってて、裏ヒロイン〜〜〜(?)綺麗〜〜〜歌うま!!!となった。
あきらさんもあんなに細いのになんでしょうねあの存在感。aで韻が踏めるほどよ。やっぱり真面目で渋めな役が似合うね。個人の意見です。
ちょっと昔の刑事ドラマ的なサウンド(イマジナリー昔の刑事ドラマ)にこれこれ!となり、この時点で絶対成功作品だと確信を得る。だって曲も演出も全部カッコいいもの。
レインコートじゃなくて何ていうのアレ、あのスーツの上に着る薄いコート。あれがひらひら〜と広がるのが天才だった。いつも見るコートの違った魅せ方を見せつけられた。
まぁそれはそれとして、豪華なドレスがわーっと出てきたときは、やっぱこれが視界の実家〜〜〜!!って思ったよね。
どこかであきらさんは映画のキムタクを参考にしたみたいな話を聞いた。確かに、仕草の細部にキムタクの精霊が見える。
半歩前に出した右足(長い)、気怠そうな感じ(色気)、人と肩越しに会話するところ(キムタク)。ああ、細かくキムタクを研究したんだろうな、と思った。
舞台の使い方にも言及したい。
日本青年館ホールは決して大きな舞台ではない。だから、大きな一級ホテルを表現するのは正直場所不足だ。しかし、この舞台はそれを技巧で乗り切ってみせた。
エレベーターは四角い照明で、ホテルの長い廊下は正面を向いて歩き、部屋の前に立つときは客席を背後にすることで位置関係を明確に表している。
主にホールとホテルの個室を中心に物語は進行する。平坦な舞台でこの二つの階層の隔たりを分かりやすく示せたのは、ひとえに演出テクニックと演技のメリハリあってこそだろう。
急いでいるときのエレベーター内のイライラした感じや、部屋の前でタイを直す仕草、ホールでの人の散らばり具合など、このメンバーだからこそ出来た「細部の演技」が光っていたように感じた。
ヒロインその他について。
『マスカレード・ホテル』はひらめちゃん(朝月希和ちゃん 雪組→花組 娘役)のおかえり公演となっていた。やっぱり演技派花娘はくり寿ちゃんとひらめちゃんの二強かな〜と確信した演技だった。
まず圧倒的に滑舌が良い。どんな長台詞も早口台詞も聞き取れる。そして歌がうまい。相手の喋る間を上手く読み取ってテンポの良いセリフ運びが出来るのは流石だと思った。そして歌がうまい。
これから上級生として花組を引っ張っていってほしいと切に思う次第です。
あとね、高翔さん(高翔みず希 花組男役 組長)の演技に良い意味でショックを受けた。
栗原さんだっけ?ハチャメチャ意味不明なクレームをつけてくるヤバヤバマン。私は穏やかでみんなを見守ってくれている高翔さんしか知らなかったのさ……あんな、劣等感に浸った活火山みたいな……あんな役をなさるとは思ってなくて……ひどくショックを受けた。負け鼠の憤りと執着を演るのは、年季や経験が必要なんだろうなと感じた。あんな栗原さんでもその後の行方が気になるのは、「高翔さんの栗原」だからだろうなぁと思った。
つかさくん(飛龍つかさ 花組男役)はね〜可愛かったね!やる気・元気・そしてまた元気!みたいな役いいな〜〜〜!
単体写真も出たし、これからの躍進に期待してしまうね。
はい真打登場〜〜〜〜〜!!!
今回のお話の目玉はここです!!!!!
音くり寿ちゃんの演技の""やばさ""について。
怪演怪演と公演中ずっと言われ続けていた彼女ですが、あれは、うん、怪演としか表現できない……。本当にやばかった。
最初くり寿ちゃんはおばあちゃんの役で登場します。原作にも出てくるのかな?広瀬すずのイマジナリーおばあちゃんの友人に読めと圧をかけられてるので原作読んでみようかな。
これがね〜…A Fairy Taleの華ちゃん(華優希 花組トップ娘役)もそうだったけど、みんなおばあちゃん役上手すぎじゃない???そんなことある???出てきたとき完成度高すぎてくり寿ちゃんか分からなかったよ。グラサンしてたし。
まず声よ。え、どこから出てるのあの声??いつものビー玉みたいな声はどこにいったの……。手元が覚束ない感じとか、主張するときに声を張るところとか、いるいるこういう人ーーー!と舌を巻いた。カメレオンくらい巻いた。
そして、種明かしのところ。
山岸さんを拉致して片桐さんから長倉さんに変装をとくところ。
私は見逃すまいとオペラグラスでくり寿ちゃんだけを追っていた。
「どうして私が?って顔ね」片桐さんがストールを外す。帽子を外す。白髪のかつらが取れる。「あなたは覚えていないでしょうけどね…」手袋を外す。曲がった腰が伸びるのに合わせて、片桐さんから長倉へと変身していく。丸く切り取られた視界の中で行われる変態は、さながら羽化し蛹を破ろうとする生物のようであった。
スン、と背筋を伸ばしたとき、誰もが息を呑んでいた。
瞬きのうちに老婆は消え、そこにいるのは哀れな復讐鬼だった。
過去の怨みをぶち撒ける歌は悲痛なほど暴力的で、ここまで胸を抉ってくるのかと感動した。腹の底から噴き上がる憎しみを喉に絡ませて歌うような、深くて重い声と制御不能な感情の表現は、もはや美しいとすら感じた。
美しくて苦しくて涙が出た。
フィナーレで踊るくり寿ちゃんはニコーッとしてて可愛い〜〜〜良かった〜〜〜と私までニコニコしてしまった。
思うに、くり寿ちゃんは宝塚でなくてもやっていけるほどの実力がある。演技はもちろん歌も仕草も完璧だ。
でもまだ宝塚にいる彼女が見たいので、退団しないでと願うばかりである。
そういえば、『マスカレード・ホテル』はあんなに成功作だったのにDVD化しないらしい。何故。あの演技のクオリティの高さは後世に残した方が良いと思う。
せめてもの気持ちで、こうして感想文を書き残しておく。