出力装置鮭

観たもの読んだものの感想しかない

でも実はちょっと観たい


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かわいい。うちの猫だ。

猫はいい。犬もいいけど猫もいい。何せかわいい。

撫でると噛まれ、抱き上げると暴れ、呼んでもそっぽを向いているがそこがいい。私は簡単に靡かないものが好きだ。

今も1mほど離れたところで寝ている。近いのに遠いこの距離よ。


かわいいものだけ見ていたいが、人とは非合理なもので、怖いもの見たさ というものも持ち合わせている。

百味ビーンズを食べてみるだとか、ついゴキブリを凝視するだとか、まぁそんなとこだ。気持ち悪いのは分かっているのにやってしまう。好奇心のバグといえるだろう。


今回はこのバグのせいで悪夢をみることになった話である。



約10年来のバカ友に「いよいよ地獄の門が開いたな」とLINEをした。10年間バカ言語を学んだ者ならそれが「巷でやばいと噂のCATSを観に行きましょう」という意味だと解読できるだろう。

案の定「4日だな」と即レス。(2月4日なら空いています の意)

バカとは速度が命なのだ。


参考としてLINEのスクショを貼ろうと思ったが、10回ピザって言わされたり蝉の鳴き真似ラリーしたり世界史人名バトルしてたりと、とてもお見せできる内容ではなかったので割愛させていただく。



私は普段、わざわざ映画館で映画を観たいとは思わないのだが、CATSは海外の評価があまりにも悪すぎて怖いもの見たさバグが発生した。

だって、こんなに怖い思いをしたことはない なんて書かれたらホラーファンとして気にならないわけなくない?

実は、意図せず自然発生した恐怖を集団単位で味わえる機会なんて滅多にない。夜 歯を磨いているときに怖スイッチが入ることはあるが、それは個人単位の体験である。ホラー映画はあくまで作られた恐怖である。

こんな「生」の恐怖を共有できるのは非常にレアであり、逃す手はなかった。


ちなみに、今まで見た中で一番怖いと思ったものは歯磨きしているときの自分の顔である。

歯磨きで怖スイッチが入るのもこれが原因と思われる。これ共感を得たこと一度もないんだけど、誰か解る人いません?



もし劇場が貸切状態だったら応援上映するか〜などと言っていたが、そこは流石の名作CATS。10人程度ではあるが、ド平日の昼間にも関わらず観客はきちんと入っていた。


期待が高まりすぎて予告編はまったく何も覚えていない。

映画の記憶は、本編の音デカッッッ!!!と思ったところから始まる。



石畳の路地裏に一台の車が現れる。夜の街は不気味なネオンに濡れ、毒々しい色で溢れている。車は汚いズタ袋を捨てて、轟音と共に去っていった。

ズタ袋は悶え回る。芋虫のように左右に頭を振り、ネオンの光の中で藻搔いている。

それを遠くから見ている者たちがいた。


猫たちである。


何かが起こりそうな緊張感のある音楽の中、猫たちがズタ袋の周りに集まってくる。光の下まで出てくると、その全貌が目に飛び込んできた。


そのときの感情を一言で表すなら、そう、「都市伝説の誕生に居合わせてしまった」感じだ。



小学生の頃、人面魚の都市伝説はどうやって生まれたのか、という何かの記事を読んだ。そのとき、おじさんの顔をもつ魚を想像して、怖れとも面白さとも違う、なんとも微妙な気持ち悪さを抱いたのを覚えている。


感情リバイバル……

おじさん顔の魚が私に微笑みかけてくる。おじさんの油と魚のヌメリが最悪の相乗効果を発揮して、一周回って人面魚に違和感がない。

よせ、魚のくせに豊かな感情を表すな。頼む、こちらに興味をもつな。今ならクリーチャーに追われる主人公の気持ちが解る……!!

誰でもいいから助けてくれ!!!!!



ズタ袋から白猫が現れたとき、不気味の谷が恐怖の底を打った。



(あ、逃げられない)



映画『ミスト』で死んでいった者たちはこんな気持ちだったのだろうか。


私は本当に生まれて初めて、映画館で「逃げられない」と感じた。

感じたのだ。思ってすらない。頭ではなく本能が「即時脱出」を選んだ。映画館の快適な椅子が電気椅子に変わる瞬間、その恐怖を味わった人間は果たしてどれほどいただろうか。


猫の顔はまったくの人間である。

今日会った人を思い出してほしい。そうその顔だ。その顔の上は髪の毛ではなく猫の毛と耳が広がっている。非常に綺麗なCGで猫の毛並みが再現されており、ピョコピョコ動く耳も愛らしい。顔が人間じゃなければ。

人間の頭蓋骨の形をそのままに、無理やり猫要素を組み込んでいるので、ホラーゲームのザコ敵のような哀しきキメラが誕生してしまっている。


まぁ、人面猫なのは百歩譲って良いとしよう。でも、人間に寄せた二足歩行にしておいて一糸纏わぬ姿なのはいただけない。

首から足先まで猫の毛で覆われているが、それでいいと思ったのか!??全身タイツの人間と変わりませんが!?じゃあキャスト全員江頭2:50で良かったのでは???

恐らくミュージカルのCATSに合わせたのだろうとは分かるが、映画と舞台で表現方法を変えるべきだと思うのよ……。びびっちゃったよ……。



この激烈なビジュアルを乗り越えられるかどうかで、映画の評価が大きく変わるだろう。

なぜなら、曲と演出はとても良いのだ。

主演女優のバレエも見事で、全員文句なしに歌が上手い。世界観はよく分からないがそういうものなのだろう。


ただ、事あるごとにビジュアルが心を折りにくる。


私が一番辛かったのはおばさん猫(ジェニエニドッツ)の歌だ。



前半20分くらいだろうか、ビジュアルもなんとか飲み込めてきた頃、おばさん猫は現れた。

歌は上手いが怠惰で肥満だと、私が最も苦手なビジュアルの青年猫に紹介される。


ここからが地獄の始まりだった。


まず、私たちはおばさん猫のV字開脚を見せつけられる。

え、何……?サービスショットなの?しんどい……。こわ…

思い出してほしい。猫たちは何も身につけていないのだ。うっすい猫の毛皮だけ!!そんな人がV字開脚をするの!!?特殊AVか何か?????うっかりこれを見てしまったお子様の心の健康を祈ってやまない。


歌は良い。すごく好きだった。

ただ、倫理観が大きく欠如している。


前提として、この映画『CATS』に出てくる生物はすべて「人間」が演じている。曲中に出てくるネズミや虫も例外ではない。

嫌な予感がした人は、精神衛生を優先してここを読み飛ばすことを推奨する。


ネズミの子どもたちを"ディナー"と呼んでいた時点で、私の頭の中の警鐘がガンガンと鳴り響いていた。この映画は、昨今のホラー映画ですら出来ないことをしでかそうとしているのではないか?心拍数が上がっていく。だが決して期待のそれではない。冷や汗が流れる。


結果としては、サトゥルヌスは回避した。



と、思った直後。


「ゴキブリの行進よ!!!」


地獄のジェットコースターが発進した。



ゴキブリも人間が演じている。だが、非常に綺麗なCGにより、表面はまるでゴキブリ、裏面はただの人間というヒエロニムス・ボスも真っ青な気持ちの悪いクリーチャーになってしまっている。

なぜそこにリアリティを求めたのか、小さなゴキブリが何百と机の周りを行進している。サイズ感を合わせたため、ゴキブリ人間がゴキブリにしか見えない。最悪だ。


何度も確認するが、曲はいいのだ。


曲はいいので、それに誤魔化されようと我々も必死になる。

しかし、ジェットコースターは急激に下るものだ。


何の前触れもなかった。

おばさん猫は確かにさっきまで歌をうたっていたのだ。

だが、目を離した隙に、バリボリと、行進しているゴキブリを食べ始めた。

それはもう、バリボリと。


哀れなゴキブリの小さな断末魔もはっきり聞こえた。最悪だ。何故そこだけリアルにしなかった??叫び声はピギーとかでよかったのに、なぜ人間の声にした???倫理観生まれたてか???

今日びホラー映画だって人を食べるときは丁寧に調理するのに!?(『グリーンインフェルノ』参照) まして踊り食いなんて……え、ほんとに人間を踊り食いする映画観たことないし存在も知らないんだけど、誰か知ってたら教えてほしい。レクター博士も踊り食いはしなかったと思うよ?知らんけど。


ゴキブリが次々と口に運ばれていくのを見て、心臓に冷たいメスが突きつけられているような感覚をおぼえた。

思わず薄目になった。この私が。

ゴキブリの破片が口から零れ落ちるのに耐えられなかった。


結局サトゥルヌスるのか……。ぼくは疲れたよパトラッシュ……。心がつらい…。



まだまだ地獄巡りは終わらない。


次に現れますはパリピのチャラ猫、ラム・タム・タガー。

彼自身は格好良くていつも女を侍らせている。歌も良かった。もちろん曲も良い。


ただ一つ耐えられなかったことは、何人もの成人男性が皿に顔を突っ込んでミルクを舐めることだ。


いいですか、彼ら猫のビジュアルはほぼ人間なのです。どんなに猫のように振る舞っても、どうしても人間が強調されてしまっているのだ。そんな猫がミルクを飲むとどうなるか。

地獄の煮凝り、特殊AV再来である。


改めて、何故そこにリアリティを求めた!?スプーン使ってくれよ!おばさん猫はホラーとして処理できるけど、これはどう転んでもフェチポルノでしょうよ???

なるほど海外で最悪のポルノとか評されるわけだよ。

猫がやると可愛いことも、人間の見た目をした生物がやると見苦しいのだ。

どうしても猫飲みをさせたかったならミルクじゃないのにしてほしかったな。もうなんか、シンプルにそう思う。


あと時計仕掛けのオレンジでこんな場面見たな…とか思ったりした。



これらのインフルエンザ患者の悪夢みたいなシーンを乗り越えたらもう大丈夫だ。試験は合格。この映画を楽しむ権利が与えられる。


ストーリーや曲は大方ミュージカルそのままなので、全編通して安定している。全部良い。テイラーも好きなので良かった。

ああ、でも最後のミストフェリーズの歌のところは陽キャ(偏見)の無意識いじめみたいで心苦しかったな。

ミストフェリーズのビジュアルだけは最初から可愛いと思えたので。推しだった。


あとで分かったことなのだが、昔好きだった『魔術師キャッツ』という絵本は原作がCATSと同じらしい。確かにマンゴジェリーとランペルティーザの泥棒猫が出てきたときに、マンゴとランプルの悪ガキコンビを思い出していたが、本当に同じだとは思わなかった。魔術師キャッツはもちろん我らのミストフェリーズ。絵本ではクールでかっこいいのよ。エロール・ル・カインの絵で最高の本です。


あ、あとメモリーがCATSの曲だとここで初めて知った。石丸幹二のCDに入ってて好きだと思ってた曲なのでちょっと嬉しかった。

ミュージカルCATSも観てみたいと思った。




映画を観終わったあと、思わず友人と顔を見合わせた。お互い言いたいことは解っている。ある意味、期待通りだ。


二人で映画について話しながら帰路につく。


私は8年前にも同じ光景を見たな、と思い出す。

あのときは確か一緒に『テルマエ・ロマエ』を観たんだ。

いや、しょーもない映画しか観てないな。




後日連絡が来た。

「吹き替え版いつ観に行く?」




観ないわ!