架空感想文 6冊目『明日の天気を教えてください』
『明日の天気を教えてください』(前島 さとる 著)
いま何時ですか?
そう訊かれたとき、あなたは時刻をどうやって確認するだろうか。
おそらく、ほとんどの人が携帯やPCの時計・腕時計・部屋の時計のいずれかで確認するだろう。
しかし、実はそれ以外にも時刻を確認する方法があって、それが時報だ。
実際に117の番号に電話をかけてみると、音声で現在の時刻を教えてくれた。
誰もが知る110や119もこの3桁電話番号サービスのひとつで、他にも177で天気予報を聞くことができるなど、バリエーションに富んでいる。
前島 さとるは数年前に某掲示板の怪談スレをまとめた本を出したことで、知る人ぞ知る実話系ホラー作家としてSNSで注目を集めている。
実話系というと想像がつきにくいと思うが、要するに都市伝説のことだ。
『明日の天気を教えてください』は、時報の都市伝説を描いたホラー小説である。
高校生のカナコのクラスでは時報が流行していた。なんてことはない、よくある物珍しさによる一瞬の流行だ。
ある日、カナコは妙な噂を耳にする。
「夕方5時の鐘と同時に天気予報の番号にかけて「明日の天気を教えてください」と言うと、おかしな返事がかえってくる」というものだ。
カナコと友だちは、興味本位で噂を試してみることにするのだった。
都市伝説は「手頃」という意味で、非常に身近なホラーである。
以前書いたことがあるかもしれないが、私は想像が最も怖いと思っている。
暗闇を歩いているとき、あそこに誰か立っているかもしれない、何かに足を掴まれるかもしれない、そんな想像が恐怖心を煽り立てるのだ。
あの背筋がゾワッとする感じがまさに「恐怖」で良い。
都市伝説における「手頃さ」とは、噂の実証しやすさである。
そして都市伝説の恐ろしさは結果がわからないところにある。
結果を想像するしかないのは、恐怖に他ならないだろう。
誰もが踏み込める世界だが、帰れるかはわからない。
前島 さとるは掲示板出身のため、読みやすいシンプルな語り口が特徴である。
黄昏と共に怪異が侵食してくる描写を、淡々と書き連ねていくことで「実体験」らしさを存分に演出している。
ともすれば見逃してしまいそうな幽かな違和感、日常の小さな歪みの中に、深い恐怖が宿っているのだ。
電話という身近なアイテムに怪異を忍ばせ、あちらとこちらを強制的に接続してくる。都市伝説にはそんな力がある。
この作品は、最後まで誰も死なない・誰も消えないのに何故かいつまでも厭な感じが纏わり付いてくる。
ずっと日常は続くのに、少しずつ軋んで、知らない顔が、増えていく。
明日の天気は晴れだと言っていたのに。
傘の向こうに知らない脚が見える。
あそこの屋上では毎日同じ人が身を投げている。
隣の友だちの話す言語が分からない。
鏡に映る自分が正面を向いていない。
少しずつ狂っていく常識に、じんわり恐怖が広がっていく。
※書名・著者名・内容すべて妄想です
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ネタか本気か分からなかったけどお題箱に入っていたので書きました。
見た瞬間にこれはホラーだ!と私ニッコリ。
次回予告 7冊目『人生は畢竟死への道標』