架空感想文 5冊目『朝日に照らされた1足のスニーカーへ、私より』
『朝日に照らされた1足のスニーカーへ、私より』(ニナ・サンザ 著)
タイトル付けは難しい。
『赤光』や『檸檬』のような熟語タイトルは格好いいけど読みにくそうで、昨今のライトノベルのような説明的長文タイトルはある種のとっつきにくさがある。
だが、中には長さに関係なく心に染み入るタイトルがあるのも事実だ。
『朝日に照らされた1足のスニーカーへ、私より』はドイツで大ベストセラーとなった作品だ。
日本で映像化も果たしたので、ご存じの方も多いのではないだろうか。
新社会人のカイは友人のギュンターとルームシェアをしていた。しかしある日、靴だけを残してギュンターは忽然と姿を消してしまう。
カイはギュンター失踪の謎を明らかにするため、タイムリープすることになる。
これは、長いタイトルの作品を嫌厭していた己の愚かさを教えてくれた作品だ。
友情の尊さに、読了後思わず頭を垂れて涙を流してしまった。
友人のために自分は何ができるのか?それを考えさせられた。
あなたの一番の友人がどこかに行ってしまいたいと思っているとき、「どこにも行くなよ」と引き止める人はどれだけいるだろうか。
友人、ましてや誰よりも仲が良い友人が何かをしたいと思っているなら、応援したいと思う人がほとんどだろうと思う。私だってそうだ。
「自分のために現状のままでいてくれ」なんて、呆れたエゴに思えて、もしくは本当につまらないエゴで、口が裂けても言えない。
相手を想うなら尚更だ。
カイもそうだった。
友情に正解はなく、あるのは結果だけだ。自分の行動が何を引き起こしたか、という。
カイとギュンターは最初から最後まで最高の友だちだった。
何度タイムリープしても、それは変わらなかった。
相手の行動を見守っていても、無理やり引き止めて友情に亀裂が入っても、己の無力に打ちひしがれたとしても。
相手のことを想う限り、最高の友だちであり続けた。
行動は個人の一存に依拠しているように見えるが、その実かなり多面的だ。
例えば、誰かが突然いなくなったとき、「失踪」と聞くともっと相手のためにしてやれなかったのかと後悔するだろう。しかし「身を引いた」と言い換えると途端にこれは美談になる。
理由を知っているかいないかで、その行動自体が変化するのは興味深い。
ギュンターが何故「失踪」したのか、カイはそれを知るため時間を巻き戻す。
そしてこの言葉が変化するとき、初めて相手と己の行動を客観視することができるのだ。
タイトルの伏線回収をする本は名作だと相場が決まっている。
以下ネタバレなので未読の人は注意!
最後を読むまで、タイトルのスニーカーはギュンターの失踪の暗喩だと思っていたが、ラストの見事な伏線回収にはしてやられた。
最後のタイムリープで、目覚めるとギュンターがいなくなっていることにカイが気付く。
またダメなのかと絶望するカイの耳に、「タイムリープをしてきた」ギュンターの声が聞こえてくる。
まさかと思い、慌てて片足だけ突っ掛けてカイは外に飛び出した。
何故タイトルの1が漢数字ではないのか疑問だったが、このラストを読んで納得した。
「1足のスニーカー」は残されたギュンターのひと揃いの一足ではなく、再会を喜ぶあまり履きそこねた片方の靴のことだったのだ。
「私より」も、タイムリープするごとにつけていた日記に、後日この最後のタイムリープの結果を書き残したのだな、と察しがつく。
タイトル回収をする作品は名作だ。本当に。
この本を勧めてくれた友人、ありがとう。
※書名・著者名・内容すべて妄想です
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考察しがいのあるタイトルがきたので楽しくなってしまった。
長文タイトルは当たり外れが激しいと思うのだけど、これはかなり読みたい。絶対いい作品。
次回予告 6冊目『明日の天気を教えてください』