架空感想文 4冊目『医学の落とし穴』
『医学の落とし穴』(佐々木 伸弥 著)
つい先日、こと座流星群が夜空を駆け巡ったらしい。
そういえば、ここ最近「あつまれ どうぶつの森」でフーコにやたらと遭遇していた気もする。
偶然だと思っていたが、もしやこの天体ショーをわざわざこんな離島まで見に来ていたというのか。お茶くらい出してあげれば良かった。
一緒に星を見ませんか?なんてなんともロマンチックではないか。
こと座からさらに目線を下に向けてみると、へびつかい座を見付けることができる。
へびつかい座は惜しくも12星座にレギュラー入りこそし損ねたが、それでも高い知名度を誇っている星座である。
しかし、諸説はあれど、この蛇使いがギリシア神話の医神だと知っている人はどれだけいるだろうか。
太陽、美、知、死、かつて人間が届かない領域はすべて神のものだった。
やがてそれらの物質・概念は人格を持ち、神話が形成されていった。
ちなみに私の推し神はバッカス(=デュオニュソス:酒の神)である。バッカスの絵画はどれもこれも飲んだくれているので面白い。
死を克服する医術も例外ではなかった。
古の人々にとって、医者は神にも等しかったに違いない。
シャーマニズムなど、医術と宗教が根を同じにするのも道理である。
科学が発展した現代でもそれは変わらない。
人類の寿命は伸び続け、病院に行けばどんな症状にも病名が付く。
『医学の落とし穴』はそんな現代の医療依存社会に警鐘を鳴らしている。
著者の佐々木氏は高名な社会人類学・宗教学者であったが、社会の盲目的な医療信仰に危機感を覚え、本書を著したという。
タイトルに医学の名を冠していながら、人類学の視点で論じているのは斬新で非常に興味深い。
私が理性的だと感心したのは、医療批判に留まらず、反ワクチン批判をも行っている点である。
いわゆる「自然派」を推進する人々は医薬品を投与せずに治癒させることを目指す。
これが、子どもにワクチンを受けさせないなど過激な思想に発展してしまうことを挙げ、これもある種の医療信仰だと佐々木氏は述べる。
なるほど、何事も極端になると信仰の領域に達してしまうということだろう。
医学だけではなく政治だって恋愛だって同じだ。
極端に寄れば寄るほど周囲のことなど目に入らなくなる。だからこそ批判的な姿勢が大切なのだろう。
そういえば中庸が大切なのだとアリストテレスも言っていた。
「死なない人間」・「自然派の幻想」、そして話は「神は死んだ」に収斂する。
「神は死んだ」はかの有名なニーチェの言葉だ。佐々木氏は医療の発展により寿命の概念が崩壊し、「あの世」がなくなる未来を想定している。
死なないことは、果たして人類にとって喜ばしいことなのか?
蔦のように地上に張り付いて生きるだけの生き物は、人間と呼べるのか?
これに対して佐々木氏は、安楽死を肯定し、人間らしく生きることが最上の「生」であると結論付けている。
医療は人間らしくあることの補助であるべきだと。
医者アスクレーピオスは死して医神へと召し上げられた。
皮肉なことに、死んで初めて「死なない」存在になったのだ。
医学は死を克服するためのものではない。生を肯定するものなのだ。
死に盲目になってしまうことこそ、医学の落とし穴なのである。
※書名・著者名・内容すべて妄想です
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いよいよ新書系を書くときが来たか…と覚悟を決めた。
医学!?この私に医学??と三度見くらいしたお題でした。
ある意味変化球だったよね。
次回予告 5冊目『朝日に照らされた1足のスニーカーへ、私より』